錦糸町マルイ教室
柳 秀三 さん
0852 高浜五郎②
2019年05月25日 23:59
電話の向こうで鈴井たちの慌てる声が聞こえるが、高浜五郎はソフトバンクのケータイを切った。
制服の作業着の胸ポケットにauのスマートフォンを落とし込み、履いていたクロックスサンダルを脱いで、安全靴に半分足を突っ込んだ。ドアを開けてトラクター(トレーラーヘッド)のキャビンを降りた。救急車を呼ぶ前に、宮川を起こして自分のトレーラーの荷下ろしを、一言頼んでおかなければならない。
そして、地面に降り立ったところでミスを悟った。すでに体が自由にならない状態になっていたのだ。五郎は立っていられなかった。めまいとか嘔吐とかではない、立って歩くことを体が拒否している。宮川のトラクター(トレーラーヘッド)のキャビンのドアを叩いて起こすつもりだったが、宮川のトラクターを回り込んで運転席側に歩いていくことはもはや不可能だ。
もう、宮川を起こすどころではない、倒れてしまわないようにするのが精いっぱい、まるで、壊れたロボットみたいだ。運転席にも戻れない、大型トラックの運転席の位置は高く、キャビンの床が目の高さにある。自分の体を運転席に押し上げることは到底できない。
ともかく救急車だ!
スマートフォンを胸のポケットから取り出し、電話アプリをタップし、119をタップした。
自分がその当人だが、脳梗塞の恐れがあるので、救急車をお願いすると話をし、氏名と工場名までは言ったものの、スマートフォンの画面に触れてしまい、電話が切れた。再度かけようとするが、左手がスマートフォンをまともにホールドできない。
『くそっ!』
動いた拍子に五郎はよろけた。工場の鉄製の門扉にぶつかり、崩れ落ち、アスファルトに仰向けに横になった。起き上がろうとするが上半身も起こせない。安全靴が脱げてしまっている。地面でもがいていると、宮川がキャビンから降りてくるのが見えた。
『寝てろ!いいから寝てろ!』
宮川が119をコールし、救急車が到着した。
五郎は死を感じなかった。ただ、嘔吐感が激しく、ひたすら救急隊員の持つビニール袋に吐き出そうとしていた。だが、何も出ず、目から涙だけがポロポロと出た。宮川に私物のバッグとスマートフォンを救急車に乗せてくれと頼んだのが、最後の記憶だった。
柳 秀三
制服の作業着の胸ポケットにauのスマートフォンを落とし込み、履いていたクロックスサンダルを脱いで、安全靴に半分足を突っ込んだ。ドアを開けてトラクター(トレーラーヘッド)のキャビンを降りた。救急車を呼ぶ前に、宮川を起こして自分のトレーラーの荷下ろしを、一言頼んでおかなければならない。
そして、地面に降り立ったところでミスを悟った。すでに体が自由にならない状態になっていたのだ。五郎は立っていられなかった。めまいとか嘔吐とかではない、立って歩くことを体が拒否している。宮川のトラクター(トレーラーヘッド)のキャビンのドアを叩いて起こすつもりだったが、宮川のトラクターを回り込んで運転席側に歩いていくことはもはや不可能だ。
もう、宮川を起こすどころではない、倒れてしまわないようにするのが精いっぱい、まるで、壊れたロボットみたいだ。運転席にも戻れない、大型トラックの運転席の位置は高く、キャビンの床が目の高さにある。自分の体を運転席に押し上げることは到底できない。
ともかく救急車だ!
スマートフォンを胸のポケットから取り出し、電話アプリをタップし、119をタップした。
自分がその当人だが、脳梗塞の恐れがあるので、救急車をお願いすると話をし、氏名と工場名までは言ったものの、スマートフォンの画面に触れてしまい、電話が切れた。再度かけようとするが、左手がスマートフォンをまともにホールドできない。
『くそっ!』
動いた拍子に五郎はよろけた。工場の鉄製の門扉にぶつかり、崩れ落ち、アスファルトに仰向けに横になった。起き上がろうとするが上半身も起こせない。安全靴が脱げてしまっている。地面でもがいていると、宮川がキャビンから降りてくるのが見えた。
『寝てろ!いいから寝てろ!』
宮川が119をコールし、救急車が到着した。
五郎は死を感じなかった。ただ、嘔吐感が激しく、ひたすら救急隊員の持つビニール袋に吐き出そうとしていた。だが、何も出ず、目から涙だけがポロポロと出た。宮川に私物のバッグとスマートフォンを救急車に乗せてくれと頼んだのが、最後の記憶だった。
柳 秀三
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