錦糸町マルイ教室
柳 秀三 さん
0048 原尞
2018年04月21日 16:00
承前
横溝正史の小説『八つ墓村』は、怖かった。
物語の華、金田一耕助の出番はここでは多くない。
語り手である主人公が、山深い村、鍾乳洞、という二重の閉ざされた逃げ場の無い舞台で、得体の知れない殺人鬼と、迷信に囚われたままの村人の集団に、追い詰められていく。
登場人物の一人称語りのため、読み手も情報を得られない閉塞感。知らぬ間に周りがどんどん変化していく。もう誰も信じられない。感情移入してしまう俺。怖かった。
いま数えてみたが、角川文庫の横溝正史の文庫本が41冊あった。当時、次から次へと購入して、耽溺していた。
その後、好みはSFというジャンルに移る。いま振り返ると、ジャンルはどうあれ、主人公が大活躍する物語が好きだったみたいだ。
高校生のころ、鎌ヶ谷駅近くにあった『岡田書店』で一冊の単行本を見つける。原尞/著『そして夜は甦る』(早川書房)である。
沢崎という新宿に事務所を持つ探偵が行方不明の男の探索を依頼され、調査中に殺人が起きる。舞台も『金田一耕助』とは違い現代であるが、『八つ墓村』と同じく、主人公沢崎の一人称語りで物語が進行する。
感情を排した研ぎ澄まされた文章で構成されている。移り変わる場面、主人公のセリフは計算され、まるで熟練のカードマジックを見せられているかのよう。
『金田一耕助』はその舞台装置に酔ったが、こちらは文章に酔った。
これがいわゆるハードボイルドなのだという。
著者は語っている、「ハードボイルドとは文体だ」と。
アメリカの作家レイモンド・チャンドラーの描く私立探偵フィリップ・マーロウものに感動して、オマージュを込めてこの作品を書いたらしい。もともとピアニストで物書きではなく、この作品を書くためだけに作家になったような人で、その作品も未だ十本の指に満たない寡作の人である。だが、『沢崎モノ』の二作目『私が殺した少女』で直木賞を受賞している。
もう身をよじりたくなるくらい、この原尞描く『沢崎モノ』に惚れた。あまりにも素晴らしいので、本家であるレイモンド・チャンドラーを買って読んだが、読み切らないうちに投げ出した。
ちなみに、原氏の名の、りょうの字は寮の字のウ冠が無いりょうである。
柳 秀三
横溝正史の小説『八つ墓村』は、怖かった。
物語の華、金田一耕助の出番はここでは多くない。
語り手である主人公が、山深い村、鍾乳洞、という二重の閉ざされた逃げ場の無い舞台で、得体の知れない殺人鬼と、迷信に囚われたままの村人の集団に、追い詰められていく。
登場人物の一人称語りのため、読み手も情報を得られない閉塞感。知らぬ間に周りがどんどん変化していく。もう誰も信じられない。感情移入してしまう俺。怖かった。
いま数えてみたが、角川文庫の横溝正史の文庫本が41冊あった。当時、次から次へと購入して、耽溺していた。
その後、好みはSFというジャンルに移る。いま振り返ると、ジャンルはどうあれ、主人公が大活躍する物語が好きだったみたいだ。
高校生のころ、鎌ヶ谷駅近くにあった『岡田書店』で一冊の単行本を見つける。原尞/著『そして夜は甦る』(早川書房)である。
沢崎という新宿に事務所を持つ探偵が行方不明の男の探索を依頼され、調査中に殺人が起きる。舞台も『金田一耕助』とは違い現代であるが、『八つ墓村』と同じく、主人公沢崎の一人称語りで物語が進行する。
感情を排した研ぎ澄まされた文章で構成されている。移り変わる場面、主人公のセリフは計算され、まるで熟練のカードマジックを見せられているかのよう。
『金田一耕助』はその舞台装置に酔ったが、こちらは文章に酔った。
これがいわゆるハードボイルドなのだという。
著者は語っている、「ハードボイルドとは文体だ」と。
アメリカの作家レイモンド・チャンドラーの描く私立探偵フィリップ・マーロウものに感動して、オマージュを込めてこの作品を書いたらしい。もともとピアニストで物書きではなく、この作品を書くためだけに作家になったような人で、その作品も未だ十本の指に満たない寡作の人である。だが、『沢崎モノ』の二作目『私が殺した少女』で直木賞を受賞している。
もう身をよじりたくなるくらい、この原尞描く『沢崎モノ』に惚れた。あまりにも素晴らしいので、本家であるレイモンド・チャンドラーを買って読んだが、読み切らないうちに投げ出した。
ちなみに、原氏の名の、りょうの字は寮の字のウ冠が無いりょうである。
柳 秀三
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